組み込み居酒屋

カフェブームですけど

通り一つ入ったところにあるその店は何の変哲もないサラリーマン向けの居酒屋である。だが、毎週水曜日の夜になると、どこからともなく組み込み技術者が集まって来る。いつ始まったのかは分からない。誰が最初のメンツだったかもわからない。雰囲気が一変するその日だけは、素人衆のサラリーマンは足を向けようともしない。
集ってくる技術者は多様である。毎週来るもの、油断したばっかりに同僚に引きづり込まれて抜けられなくなったもの、ファームウェア開発者、FPGAユーザー、ASIC開発者、ツールベンダー、サンデー開発者。ネタを探しに来る雑誌の編集者もいれば、作ったブツを自慢しに来る者もいる。どいつもこいつも大して飲み食いしないが、店主は鷹揚なもので一風変わった客を追い出すこともなくたまに入る注文を捌いている。
基本的に理性的な連中ではあるが、だからと言っていつも静かなわけではない。いや、たいていはにぎやかだ。あっちのテーブルでは今年に入ってN回目のプログラム言語論争が行われているかと思えば、こっちのテーブルにはK個目の評価基板を「どうせ積み基板になる」と言われて激こうしている技術者がいる。
店の端で「締め切りを守れ」と出版社の編集につるし上げを食らっている技術者が居るかと思えば、反対側の端では「必死で書いたのに掲載延期しやがって」と技術者につるし上げを食らっている編集もいる。

なんて居酒屋があってもいいですね。白鹿亭綺譚のパクリですが。

白鹿亭綺譚 (ハヤカワ文庫 SF 404)

白鹿亭綺譚 (ハヤカワ文庫 SF 404)